「ま~ま~・・・」
繋いでいた娘の左手に、下を向いた拍子に頬を伝って涙がこぼれ落ちてしまい、
娘が私の顔を心配そうに下から覗き込んできました。
こちらが本気で話しても相手にされないどころか、
「嘘」をついている、「過大表現」しているなどと言われたら、
初めから信頼関係を築けるはずもなく、
話が前に進む事はありえず・・・
この役所の相談員さんは、仕事の時間が終われば自分の家に帰れるけれど・・・
私たちは、今日泊まる場所の宛ても無いまま
役所が閉館してしまえば行く当てもない身・・・。
だとしたら、どういう姿で此処へ来て、どんな人だったらすぐに助けてもらえたのだろう・・・
私は・・・
声を荒げず冷静に話した・・・
役所の人に失礼のないように話した・・・・
本当に困っているのに、今日泊まる場所も、寝る場所も無いと、来たときから何度も言っていたのに・・・
私の前に役所の人が戻った頃には、閉館の音楽が流れていました。
『さっき言っていたシェルター、、、この辺りだと此処しか無いんですけど、行ってみますか?』
「・・・はい。お願いします。」
『そこまではタクシーで行くようになるけど、大丈夫ですか?』
「しかたありません。タクシーで幾らくらいかかりますか?」
『ちょっと、私は行ったことないのでわからないんですよね・・・』
惨めすぎて涙がこみあげ、、、
それでも相談員に頭を下げ、役所を後にしました。
役所のタクシー乗り場で、シェルターに行くため愛犬も連れていく事を何とか承諾してもらえるタクシーを何台も頭を下げてあたり、、、
何台目かでようやく・・・
シェルターまではとても分かりづらい道のり・・・
なぜなら、DV被害にあった人やストーカー被害にあった人が身を隠す事もあるため、あえて分かりづらくなっているようでした。
タクシーから降りると、そこは看板も何も表示のない古い建物で、
本当にこれがシェルターなのかという感想でした。
玄関のあかりが薄暗く灯り、私は扉をノックしました。
「ごめんください・・・」
『・・・はーい。どうぞ、お話は伺っていますよ。どうぞ中にお入りください』
「あの・・・2歳の娘と、愛犬が一緒なんです。」
『はい、聞いています。ワンちゃんはね、一緒には無理かな・・・うん。保健所とかに引きとってもらうようになるかな・・・』
「一緒には無理なんですか?」
『そうねえ・・・』
「・・・そんな・・・・」
『此処は、人間を保護する施設だからねえ・・・動物はちょっと・・・・・』
私は、感情が言葉に出そうになるのをどうにか抑えていました。
愛犬が一緒が駄目なら、最初からここまでタクシー代をかけて来なかったのに・・・
来てしまってから犬は駄目ですって、、、じゃあココをどうするっていうの?
なけなしのお金をはたいてタクシー代をかけて来たというのに、シェルターの中に入る前に私の中でおおよそ結論が出てしまっていました。
『とにかく中に入って下さい。お話を伺いますよ』
・・・私はそんな時間は無いと感じていながらも中の相談室に案内されていました。
古い木の椅子とテーブル、相談室は2畳くらいの小さな部屋。
ゆっくり相手の話に合わせて話を聞いていたら、おそらくあっという間に夜になってしまうだろう・・・
愛犬が駄目ならこのシェルターにとどまる選択肢はもう無い・・・
だけどここまでお金をかけて来たのだから、シェルターの情報くらいは得て帰らないと・・・
『中の部屋を見ますか?』
「はい。お願いします。」