私と娘と愛犬だけになり、
弟のマンションの鍵を開けて部屋に入ると、まず部屋の電気を全てつけ、
娘と愛犬のトイレを済ませて、喉を潤し、
その隙に娘におもちゃと遊ぶスペースを確保し、
愛犬のゲージの用意をしました。
一階のエントランスからエレベーターで
マンションの住人の迷惑にならないよう物音に気をつけながら何回か荷物を運び、
ようやく和室の部屋に布団を敷いて休む頃には朝日が昇る時間になっていました。
娘を寝かしつけるのにトントン(タッチング)している私は、
身体は疲れているはずなのに頭が冴えて思考が止まらず、
なかなか眠りにつけませんでした。
『起きたらまず、娘の大好きなハンバーグを作る材料を買いに行こう。
愛犬にはササミスティック‥』
この場所がどこなのかも知らされていない私は、スーパーの位置も知らないのにこんな事を考えていました。
まず娘と愛犬を安心させてあげたい。
娘のお腹を大好きなもので満たしてあげたい。
声も出さずにじっと目に涙を浮かべている愛犬に、大好物のササミスティックを食べさせてあげたい。
それだけでした。
むしろ大変な事があったなんて、脳に記憶しないように
娘達のまえでは、いつもと同じ笑顔で
普通を装うことで、自分自身を保っていたのかもしれない‥‥
目が覚めると支度を整え、マンションを出ました。
目印を見つけてはガラケーで写しながらマンションに帰って来れるように写真を残しました。
本屋を探して、この辺りの地図の記載のある無料の求人誌をもらいました。
タクシーで遠く離れたスーパーへ向かい、
愛犬は仕方ないなと、了承してもらい乗車出来ました。
この時、帰りのタクシーに乗せてもらえるか、、不安を抱きながらスーパーに異動
しました。
スーパーはもちろん犬は入れるはずもなく、入口にリードで愛犬を繋いで買い物するのですが、すぐほどけてしまうリードを見ては、心配でしょうがありませんでした。
『買い物して出て来たらいなかったらどうしよう‥‥』
その想いが愛犬に伝わるのか、目で訴えているように感じました。
「おりこうに待っていてね。すぐ買い物して戻ってくるから!」
私は娘を抱っこし急いでスーパーの中へ入ると、買い物を始めました。
「ママ〜。いつものハンバーグ食べたい!」
無邪気な娘の顔を見ると、それは無理だ‥‥とは言えず、
何も勝手のわからない弟のマンションのキッチンで、
娘の大好きならハンバーグを作る事になりました。