両手に買い物袋を下げて、入口の愛犬のところへ行くと、
知らない人がしゃがんで私のココ(愛犬)を撫でていました。
ココ(愛犬)は困った表情で私たちに目線を向けると、
私達が戻って来てくれた事を確認したとたん勢いよくシッポを振り、口を開け喜んだ表情になりました。
『可愛いワンちゃんが居ていいですね』
撫でていた若い人は「愛犬がいる生活が羨ましい」と私たちに話をしてきました。
その言葉は、今の私には素直には喜べず‥
そう思っている自分に対して罪悪感を感じながら話を聞いていました。
可愛くて仕方ないココ(愛犬)‥‥
なついているし、かしこい‥‥
でもこの子がいることで、経済的にも、私の行動も制限されてしまう‥‥。
今日一日では無い、‥これから先ずっと‥。
私はこの子(愛犬)を養っていけるのだろうか‥
あのアパートに置き去りになど出来なかったから、
娘と一緒に育ってきたから、
犬であれ、命は命。
しつけをした分、野犬のようには生きれない。
私はこの愛犬の命をこの先ずっと守れるのだろうか‥‥
仕事をして家を空ける時間や、この先娘と出かける時。
例えば旅行したり実母のもとに帰省することもあるだろう‥‥
ココ(愛犬)の潤んだ目にじっと見つめられながら、私は自分自身に静かに自問自答をしていました。
『ココ‥ごめんね‥‥』
考えていたら
目の奥がジワっと痛くなり、涙が溢れてきました。
愛犬がウチに飼われていなければ、
もっと裕福な家に飼われていたなら、
別の飼い主だったら、
きっと愛犬はこんな想いはしなかっただろうと思うと
申し訳なくて‥‥。
私達の見かけは、困っている家族像には見えないらしく、
目の前を通り過ぎていく人々はみな、愛犬と娘に微笑みながら話しかけて来ました。
「可愛いお嬢さんと可愛いワンちゃんが居て、お母さんは幸せだね!」
見ず知らずの人たちの目に映る私達は、幸せそうな家族のカタチに見えてしまうと言うことを知り‥‥
本当は
『助けて下さい!私たちは行く先が無く、お金も無く、この先どうして生きていけばいいのかわからないのです!誰か、助けて下さい!』と目の前で私に微笑む見知らぬひとに叫びたかった‥
・・・でも、出来なかった。
目に見えない事実や真実は、他人には分からない事実、、。
助けを求める事が出来ないまま、見知らぬ人に会釈をし、食料品の入った手さげ袋をひじに食い込ませてタクシー乗り場に並びました。