弟のマンションを一部屋づつ確認しながらまわっていきました。
私たちの私物がすべて無くなり、元の状態に・・・
この場を去るという意味が分かっているのかは定かではないけれど、
「キレイキレイして、バイバイね」
と、娘にこの場を離れることを伝え・・・
しっぽを振っている愛犬ココの目も見てさとし、伝えました。
「ココ・・・また車で移動するからね。おりこうさんに静かにしていてね・・・」
身体の体制も変えられない程の小さなバッグの中に、
静かにココは入ってくれました。
父は、私からの連絡を受け仕事を終えた後に
おおよそ片道300kmある道のりを
高速道路を飛ばして迎えに来てくれました。
自分の今の家族に知られないようにするだけでも気を使い、さらに体力も消耗している父・・・・・
「お父さん・・・また、頼んでしまって、、ごめんね・・・」
この間父にここまで連れてきてもらったというのに、
また・・・
娘の荷物の入ったバッグと、愛犬の入ったバッグを父の車に積み
助手席に娘を抱っこした私が座ると父の車は走り出しました。
「・・・お母さんのところへは、
・・・行けないの・・・」
『どうして?どこへ行くつもりなんだ・・・?』
「お母さんに迷惑かけたくないし・・・お父さん、あの駅まで送ってもらいたいんだけど・・・」
『そこからどうするんだ?車がないんだぞ・・・?』
「わかってる・・・でもココもお母さんの団地には入れないし・・・犬が居ることが住人に見つかったらお母さんが退去するようになってしまうし」
『行き先は決まっているのか?』
「うううん・・・決まっていないけど・・・」
『大丈夫なのか?』
「・・・うん・・・大丈夫」
本当は大丈夫じゃない、、
父に心配かけたくなくて大丈夫と言ってしまったけれど・・・
私には先日本屋さんで読んだ”名の変更許可申請の手続き”を早急にやるという目的があ
る。
本当に名前を変更出来るのか出来ないのかも確認したい・・・
娘のこれからの人生を
駄目にしたくない・・・
父との会話は、これから先の生活や仕事、住まいなどについての話をしながら車は進んで行きました。
『食べていけるのか・・・?』
「・・・分からない・・・」
『・・・そうか・・・ひとりじゃないからなあ、大変だな・・・』
「うん・・・置いて探しにも行けないし・・・ココもいるしね」
『・・・・・・まいったな・・・・』
「・・・・・・」
『本当にいいのか?お母さんの団地に行かなくて・・・』
「うん」
父は私に気遣った言葉をかけてくれているのがわかりました。
疲れているのに休むことなく、
眠い目をこすり車を走らせてくれました。
暗かった道が青白くなり山の上に光が漏れ始めると
一気に朝がやってきました。
朝7時。
太陽が寝不足の目にまぶしく映り遠くに目的の駅が見えてきました。
『気を付けてな・・・』
父はこのまま仕事に行くと言って車に乗り、足早に立ち去りました。
駅は朝の通勤通学の人で行き交い混雑しているなかポツン
私と娘とココは”ポツン”と立ち止まって居ました。
「・・・さあ・・・・・・頑張らなきゃね。」
弱く頼りない自分の心にムチを打ち、
無理矢理空を見上げ
大きく深呼吸してから駅に向かって一歩を踏み出しました。