来た道を戻れば帰れるはずなのに
目印がわからなければ戻ることさえ出来なくなってしまう・・・
夕方になると
見たはずの景色も違って見える。
私の不安な思いは、
繋いだ手に伝わってしまっているのか
“ぎゅっ”と手を握り返してくる娘。
身長90cmの娘の目線はどんな景色をとらえていることだろう・・・
行き交う人はとても大きく見え
道路を走る車はとてつもなく早い物体・・・
私は娘の不安そうな視線を直視できず
ごまかす様に空を見る・・・
夕暮れ時の空・・・
空を見ているだけなのに少し油断すると目から涙が流れてしまう私・・・
風が目に入っただけでしょ、、、ただそれだけなのに・・・
13cmの小さな靴で歩く娘の歩幅に合わせて歩く。
その脇にちょこちょこ歩くミニチュアのココ・・・
大人が歩いたら15分の道のりも30分以上の時間がかかってしまう・・・
一歩一歩・・・
両手がふさがっていることを察しているのか
疲れても抱っこをせがんでこない・・・
『娘もココも頑張ってくれているんだ。
私もしっかりしなきゃ・・・
涙を拭いて、笑顔でいなきゃ』
辺りがすっかり暗くなり街灯が灯る頃、ようやく弟のマンションに到着・・・
「カチャッ・・・」
ドアを開け中に。
『屋根のある暖かい部屋を・・・ありがとう・・・
ここに置いてもらえなければ、あたたかい布団で眠ることも出来なかったね・・・』
ドアを開けるたびに弟に感謝・・・
手を洗いうがい・・・
ココの足も洗ってココの身体も洗う。
ココはとってもお風呂好きな犬。
自分を犬とは思っていないと思う。
娘と姉妹だと思っているかのように振る舞うココ。
タオルで身体を拭き、ドライヤーで乾かす。
気持ちよさそうなココ・・・
弟も同じミニチュアダックスを飼っていたため、とても助かりました。
冷蔵庫にある残った材料で夕飯の支度をしテーブルへ並べ・・・
娘はその間持ってきたおままごとで遊び、ココはバッグからガムのおもちゃを引っ張り出して自分で遊んでくれている。
『・・・ありがとう・・・』
ごはんを食べさせ歯磨きし、その間に布団を敷いておく。
空いた時間に皿洗いを済ませ、娘の身体が冷えないうちに布団の中へと運ぶ。
持ってこれた手のひらサイズの絵本を読み聞かせながら
タッピングして娘を寝かしつける。
私の心は辛いのに
『普通の母親』を演じている。
2歳の娘にはどう映っているのかな、、、
自信のない母親・・・泣いてばかりの母親。
こんな私を見たら娘もココも不安になっているのかな・・・
『そうだ・・・シェルターの用紙、、、見なきゃ!』
もうすぐ眠りそうな娘の体温を横に感じながら、
うつぶせになった私は役所で頂いた用紙に手を伸ばしました。
どうなるかわからない私たちのこれから・・・
シェルターという場所があることも、一つ情報を得たということ。
『どんな場所にあり、どんな人が入所しているのかな・・・
中はどんなだろう・・・』
何も分かない状態で飛び出したあの日から、彷徨いながら数日間が過ぎていました。