気がつくと時刻は随分と過ぎ、お昼近くになっていました。
弟と父の車、2台で役所の駐車場から
今日の行動スケジュールを考え出発。
実の父、実の弟、そして私。
この3人で話しているなんて…
父の事業の失敗で一家離散してからは、
皆いる場所もバラバラで
元の家族で顔を合わせるなんてかなわぬ夢、と思っていたので
今の現実が不謹慎な状況のなかで少し嬉しくもありました。
『こんな時、やはり飛んできてくれるのは家族なんだ…。』
どうしてこうなったのか、
なぜ今まで言わなかったのか、
そんな人となんで結婚したのか‥‥
聞かれるのかと思って、色々考えても答えが見つかる訳もなく‥‥。
私は父の車の助手席に、娘を抱っこして座っていました。
父の顔をまともに見れずにいると
父は余計な事は何も言わず、ただ前を見て運転し
「これから娘と犬つれて大変だよ、、頑張るしか、ないよな」
前を弟の車が誘導し高速道路を走りながら、ボソボソっと父が放つ言葉。
幼少のころから親子なのに、父とあまり話した事がなかった私は、少し緊張しながら
父の言葉に返答していました。
フロントガラスから見える景色は凄い速さで流れ、
今までアパートの中にいた時間を早送りしているようでした。
娘は私にぴたっとしがみついて眠ってしまい、
愛犬は後部座席の足元のキャリーバッグの中で全く声をあげず黙っていました。
「‥‥お父さん、、ごめんなさい。こんなことになるなんて、私‥‥」
歯切れが悪く答えの出ない会話。
頭の中で思考されていることも、口から言葉にはならない事ばかり。
二県離れた弟のマンションに着いたのはすでに深夜で
隣人は寝静まり、電気もまばら‥。
車を道路に縦列駐車して、車から荷物をエントランスに下ろし、弟の部屋へ運びました。
「じゃあ、明日仕事だから、、、帰るよ。‥頑張れよ。」
父は、余計な事や相手を罵倒する事等何も口にしませんでした。
ただ、『これから大変な人生だけど、、頑張れ、、、』とだけ私に残して。
父が事業失敗から這い上がってきた道のりを、
この時32歳の私にはまだ知らず、
その短い言葉に隠された意味を知るのはそれから20年も後でした。
父が車で私の目の前から去っていくのを見送り、
続いて弟も立ち去りました。
弟は婚約していた為、私にマンションの鍵を預けると直ぐ立ち去りました。