私は娘と愛犬を車に乗せあてもなく走り続けました。
「ママ〜?どこに行くの?」
車の中で娘が不安そうに何度も問いかけ
私達は真冬の湖に車を停めたのです。
誰もいない湖はとても静かで、
空気が鼻の奥を刺し、空には満天の星が輝いていました。
波が月明かりと星で照らされていて、
とても明るく幻想的過ぎて泣けてきました。
この世の中に、私と娘と愛犬しかいないのではないかと錯覚に陥るほど、
自由な気持ちになっていました。
薄暗いアパートで閉じ込められていた心が、
ぱぁーっ!と解放されていくような感じでした。
私は両腕に抱えていた娘と愛犬を静かに浜辺に下ろし、
しばらくの間岸の向こう側をぼんやり眺めていました。
私は26歳の冬に
自分の実家を失った日の夜中の事を思い出しました。
『なぜ私にはこんな不幸ばかり起きるのだろう‥‥』
私は自分自身の結婚、
さらには自分そのものを責め続けて答えを求め自問自答しました。
『どうしてこんなことになってしまったのだろう‥‥』
私は左手の薬指にはまっていた結婚指輪を外そうとしました。
しかし、寒さで手がかじかんでいるせいなのか、それともむくんでいるのか、、なかなか思うように指輪が外れません。
なんとか力任せに指輪を外すと、
関節部分が内出血してしまいました。
外れにくかったことがなおさら悔しく感じました。
やっと外れた指輪を右手の親指と人差し指でつまむとその固形をじっと眺め、
右手を後ろに大きく振りかぶり、
思い切り遠くまで投げ捨てました。
「ポチャッ‥‥」
遠くで結婚指輪が水の中に落ちた音が聞こえました。
私はとても暗く惨めな気持ちになり、
この先の娘の人生と自分の人生を悲観していました。
『もう、辛い‥‥。生きていても惨めなだけ』