娘は浜辺にしゃがみこみ、
丸くなって愛犬を抱きかかえると
落ちていた木片で砂浜になにやらお絵描きを始めました。
月明かりと瞬く輝く星が私たちを照らし、
優しい波の音だけが聞こえていました。
「これね、、ママとわたしとココ(愛犬の名前)を描いたの。
みんなでなかよく、がんばりましょう!」
氷のように冷たくなった頬を、
湯気が出そうな熱い涙がとめどなく流れ落ち、
砂浜に吸い込まれて行きました。
『この子たちは私を一生懸命励まそうとしてくれてる』
砂浜に描かれた絵を見ながら、娘が産まれてきた日のことを思い出していました。
三月の東北の深夜、夫の屋外の仕事を手伝っていた時、
激しい腹痛に襲われた私は呼吸困難に陥り破水してしまいました。
近くの産婦人科まで自分で車を運転して行くと呼吸器をつけられ
そのまま入院することになり、イヤホンでラジオを聴きながらベッドに横たわり、
出産に向けて心を整えていました。
『今置かれている状況は自分が思い描いていた理想とは全く違う現実だけど、
どんなことがあってもこの子は私が守る。
私の宝物だから!』
その想いだけを強く胸に抱え、私は静かに時を待ち続け
早朝5時、看護師さんが病室に迎えにきました。
「そろそろお時間です。分娩台にお願いします」
トイレを済ませると初めての出産にとても緊張しながらも、腹を決めて分娩台に乗りました。
しかし出産は簡単にはいかず、何度も何度も意識が遠のくのを振り起こされながら、
すでに5時間以上経過していました。
『お母さんが頑張ら ないとお腹の赤ちゃんが死んでしまうのよ!
起きなさい!!』
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