私には
「今だ!ここから逃げろ!」
と言われているようでした。
目の前で起きている現実は自分にとって
とても悲惨な出来事なのに、
このリアルが無ければ『今』は変わらない。
普通なら泣き叫びそうな出来事なのに
むしろ冷静な自分がいる‥‥
不思議な心の動き、
まるで潮が満ちた時のように落ち着いた気分。
6人の刑事達が押収品の名目で
私の下着や衣服を段ボールに詰め捜査終了を私に伝えて来ました。
「刑事さん、、私は、‥‥好きものなんかじゃありません!訂正して下さい‥」
「あぁ、‥失敬!失礼しました」
アパートから刑事達が出て行くと
騒がしかった物音がなくなり、
本当に現実に起きた事なのかと疑うほど
私はぽつんとなりました。
「ママ〜‥‥」
ハッとして、胸に抱いている娘の顔を見て我に返りました。
毅然とした態度で冷静に対応していた自分から
フッと私に返った瞬間‥‥
目から涙が溢れて
見上げている娘の頬に流れ落ちました。
『なんてこと‥‥』
不幸な現実が、紛れもないきっかけを与えたことで、
運命の歯車が動き始めました。
『ここを早く出ないと‥‥』
騒がしくなったアパートの外の雑音を耳にしながら、いつもの日常と変わらないように振る舞い、荒らされた部屋をサッと片付け、娘と愛犬に朝食を作り‥‥
『やっとここから解放される‥‥』
夫のいなくなった空間の空気を思い切り吸い込み
悪い気の充満したアパートからとにかく出たくて
自由を感じたくて
娘にも自由を感じさせたくて
緊張がとけた私は自然の空気を思い切り吸い込みたくて仕方ありませんでした。
『ガチャ‥』
アパートの扉を開き外に出ると
目を閉じ、空に向かって感謝しました。
「神様‥‥?ありがとうございます」
私は娘と愛犬を両手に抱え
薄暗いアパートから
シングルマザーへの扉を開きました。
その日は突然に。
なんの前触れもなく。
でも確かに、自分では作り出せない扉を開け、
外の世界に飛び出すきっかけを得たのです。